山中は海外挑戦を思いとどまるべき? ソリスに2度のダウンを奪われ、よもやの大苦戦。これでホントに海外進出? 統一戦?【結果・感想】

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海外のビール
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2016年3月4日に京都・島津アリーナでWBC世界バンタム級タイトルマッチが行われた。

同級王者の山中慎介が挑戦者のリボリオ・ソリスと対戦し、両者2度ずつのダウンを奪い合う激戦の末、3-0(117-107、117-107、117-107)で勝利を挙げた。

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これで山中は戦績を27戦25勝2分とし、日本人防衛記録の歴代3位に並ぶ10度目の防衛を達成した。

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ソリスはやっぱり強かった。亀田大毅は意外と強かった

まずこの試合を観た上での僕の感想は大きく分けて3つ。

・山中の勝ちは間違いない
・山中が奪った2つのダウンはただのスリップダウン。手で押し倒しただけ
・リボリオ・ソリスは思ったとおりいい選手

特に3つ目のソリスの強さに関しては、やっぱりそうだよなという感じである。

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亀田大毅を引き合いに出してやたらとこの選手を雑魚扱いする方が多くいらっしゃったのだが、結果は見てのとおりだ。弱いなどということはまったくない。2階級制覇を狙うにふさわしい挑戦者である。

むしろこんな強い選手と2階級も上のウェイトでやらされて、あれだけ健闘した大毅はよくがんばったと言うべきである。
別に亀田兄弟を嫌うのは自由だが、そのせいで本来の実力すら見えなくなってしまうのは危険ではないかと思うのだが、どうだろうか。

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山中を研究してきていたソリス。至近距離で何もできなくなることを知っていた

今回のソリスは山中をよく研究していたと思う。

この試合でわかったと思うのだが、山中の弱点は距離を詰められると何もできなくなるところである。

要するに得意の左を振り回せるだけのスペースがないと、出せるパンチがなくなるのだ。これは前回のアンセルモ・モレノ戦で思いきり露呈してしまった弱点でもあり、今回のソリスもそのことに気づいていたのだろう。徹底して距離を詰める作戦を選択してきていた。

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正直僕は、ソリスがもう少し山中の強打を警戒して突進を躊躇するのではないかと思っていた。左の大砲をちらつかせながら右を出していればソリスは入ってこられないのではないかと思っていたのである。
7Rでの山中KO勝利を予想していたのもそのためである。山中が遠い位置でソリスを釘付けにし、タイミングを掴んだところで左をドカン。これで終わるのではないかと予想していたのだ。

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だが、その肝心の右がソリスにまったく通用していなかった。

山中の右に合わせて、低い体勢で大きく踏み込む。
返しの左が飛んでくる前に右を出しながら身体を密着させる。
山中が距離をとろうとバックステップするので、それに合わせてさらに踏み込んで右を打ち込む。
ソリスがやっていたのは基本的にはこれだけである。

だが、距離を詰められると出せるパンチがなくなる山中を封じるための作戦としては最も適切な方法ともいえる。

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先日も言った通り、ソリスのよさは相手のスタイルによって作戦を変えられる引き出しの多さである。
河野公平戦ではアッパーをフィニッシュに使い、亀田大毅戦では体力差で押し潰す作戦。そして今回は山中の右に合わせて前に出るスタイルである。

事前に研究を怠らない勤勉さと苦戦を前提とした対応力の高さ。まさしく強敵である。

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ソリスは山中の強打を警戒して近づけないと思っていたが、全然違った

試合前には確か山中本人が「右の成長が著しい」と言っていたと思うが、全然違う。
山中の右は成長などしていない。
むしろ劣化している。

何度も言っているのでいいかげんしつこいのだが、山中の全盛期は2011年の岩佐戦。これははっきりと断言できる。

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そして、あの試合以降の山中はなだらかな下降線を描いている。原因は明白で、長谷川穂積と同様、長年国内で雑魚狩り防衛戦を続けてきた弊害である。

かつての山中を見ると、もう少し切れ味鋭い右を出せるボクサーだったことに気づくはずだ。
そして、本来はもう少し足を使って前後左右に動きながらチャンスをうかがうスタイルだったのだが、いつの間にか足を止めて左一本を狙うだけの単調なボクシングに凝り固まってしまっているのである。

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繰り返しになるが、ソリスはこのことにいち早く気づいていたのだろう。
山中の強打をもっと警戒して近づけないと思っていたが、まったくそんなことはなかった。むしろ山中が距離を詰められると何もできなくなることをわかった上で、とにかく山中に窮屈なボクシングをさせることを徹底していたのだ。

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スタイルはまったく違うが、この辺はアミール・カーンと少し近いものがあると思う。自分の距離で戦えるときは滅法強いが、その距離を崩されると途端にペースを崩す。ひと言で言うと引き出しが少ないということなのだが、逆にたった一つの戦い方でここまで勝ち続けてきたことはむしろ賞賛すべきとも言えるのだが。

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そして、距離を詰められるとまっすぐ下がるのも山中の悪癖である。
もう本当にまっすぐ下がる。
ただバックステップするだけ。
ファイターの意地なのか習性なのか知らないが。
 
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後半になってソリスの踏み込みが鈍ったので助かったが、何度も踏み込まれて右を被弾するあのシーンは危険この上ない。

というか、あまりにもサウスポーの利点を活かす気がなくてちょっと笑ってしまう。もう少し右に回るとか、いくらでもやりようがあると思うのだが。
「ちょw お前ww サウスポーの意味まったくないやんけww」。

さらに、もう一つ予想外だったのが山中のフィジカル面である。
たとえソリスに懐に入られたとしても、体格的にも有利なのは山中だろうと思っていたのだが、これも違った。フィジカル面で圧倒できずにソリスに押し込まれるシーンが目立ったことはかなり意外だった。

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ただ、最終ラウンドの残り30秒からの山中は問答無用にすばらしかったと思う。
軽い右で距離を測り、左の強打をダブルで打ち込む。ロープに追いつめてタイミングを決めてさらに左。
あのパターンにさえ持ち込めれば完全に山中の土俵なのだが、今回はソリスがうまく戦ったおかげで本領を発揮するのが11Rと2分30秒遅れてしまった

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海外進出? 止めた方がいい。国内防衛記録を狙った方が絶対幸せになれる

結論としては、今回の試合は山中の調子が悪かったというよりソリスに研究されたおかげで苦戦したという試合である。いや、研究されたというより攻略されたと言った方が正確か。

ただそれでも判定には文句のつけようがない。たとえ2度のダウンがスリップと判定されていても勝ったのは山中だろう。
あれだけ攻略されながらでもきっちり勝ちきるという意味では、すばらしい選手であることには違いない。

山中の次戦だが、どうやらIBF王者リー・ハスキンスとの統一戦を模索しているとのことである。
実現するとしたら敵地になるのだろうか。ハスキンスは2015年6月に岩佐亮佑が何もできずにKO負けを喫した相手だが、日本でやるか敵地でやるかによって結果が大きく変わってくるように思える。

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というより、何度も言うように山中は素直に防衛記録更新を狙った方がいい。統一戦とか海外とか、イキって無理をしない方が身のためだ。それより国内防衛路線を歩いた方が長い目で見れば絶対に幸せになれる。

山中の課題は右の精度、防御の甘さにあるという話は何度も聞くのだが、正直今さらどうこうできるようなものではないと思う。

全盛期の山中は、左のストレートを打った後の返しの右までを一連の攻撃パターンとして持っている選手だった。
だがいつの間にかそれがなくなり、左ストレートを打った後に大きく身体が流れて顔面を無防備にさらけ出すシーンが目立つようになったのである。

今回の試合で奪われた2度目のダウンなどもまさにその典型だ。
岩佐戦までの全盛期の山中であれば、あそこから右フックにつなげるなり、少なくとも防御の体勢を保っていられたはずである。

ためしに2011年の岩佐戦を見返してみていただければと思う。
今の山中とは比べものにならないくらいシャープな右を打っているし、右から左、そして返しの右までを基本的なパターンとして確立していることが確認できるはずだ。
前回のモレノ戦であの右をやや持ち直したとは思ったのだが、今回はやっぱり元に戻ってしまっていたのもガッカリした。

もちろんこれも長年国内防衛で雑魚狩りを重ねてきた弊害である。
ある程度の相手であれば左ストレート一発で倒せてしまうので、気づかぬうちに返しの右フックや打ち終わりの防御の必要性が薄れてしまったのだろう。
そして前回のアンセルモ・モレノ戦において、接近戦での弱さとともに打ち終わりの無防備さも豪快に露呈してしまったということなのだ。

つまり、批判を覚悟で断言すると「山中の右の精度」は課題ではなくただの劣化だ。単に経年劣化によって輝きを失った。回復不能なほどに。それだけのことなのだ。

さらにこれも繰り返しになるが、今回の試合では接近戦でこられると厳しくなるというフィジカル面の不安も見せてしまっている。
下の階級からアップした選手で、あれだけ身長差のあるソリスごときにあそこまで押し込まれるとは思わなかった。

普段村田諒太を酷評することが多いのだが、あの選手は激戦区のミドル級においても通用するフィジカルを兼ね備えている。
内山高志にしても井上尚弥にしてもそうで、海外のトップ戦線に通用しそうな選手はやはりフィジカル面での強みがある。
技術どうこうはもちろん大事だが、大前提として最低限のフィジカルが必要なのはどのスポーツにおいても共通だ。特にコンタクトが発生する格闘技ではなおさらである。
そう考えると、むしろ海外のリングで結果を出す可能性が高いのは村田諒太ではないのかとも思えてきてしまう。

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そういった意味でも、やはり山中は国内防衛路線を貫くべきだと思うのである。

山中はすばらしい選手。そして防衛記録が無意味などということはない

散々酷評してきたが、念のために言っておくと山中慎介がすばらしい選手であることに疑いの余地はない。そして、今回の試合は間違いなく山中の完勝である。

よく「山中慎介の強さもわかってないヤツが偉そうに語るな」と怒られるのだが、マジでどうにかならないものか。山中慎介が稀代の名選手であることはわかっているし、歴代屈指の強打者だということはすべての話をする上での大前提である。

それらを加味した上で、国内防衛を続けた方がいいのではないかと言っているのだ。

別に具志堅の防衛記録にこだわることが悪で、海外挑戦することが善などということはまったくない。
国内防衛記録を更新することなど凄まじいほどの快挙だし、その肩書きがあれば一生食うのに困ることはないはずだ。
晴れて記録を更新した暁には堂々と胸を張って、「記録更新したどー」と海に向かって声を張り上げればいいのである。

何より劇場型に変貌しつつある山中の試合は単純におもしろい。

次は豪快に予想を外した木村vsロペス戦か。

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いや、その前にホーリー・ホルムvsミーシャ・テイト戦があるな。

いかん、ちっとも追いつかん。

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