内山高志敗北における日本のジムの鎖国体質批判への考察。てか、ジム経営ってどうなのよ。「選手のことを考えろ」って気軽に言えるもの?

内山高志敗北における日本のジムの鎖国体質批判への考察。てか、ジム経営ってどうなのよ。「選手のことを考えろ」って気軽に言えるもの?

電卓イメージ
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衝撃の内山高志敗北から半月以上が経ち、世界のS・フェザー級戦線もにわかに騒がしくなっている。
WBA正規王者のハビエル・フォルトゥナvsジェイソン・ソーサ、WBOスーパー王者のローマン・マルチネスvsワシル・ロマチェンコなど、注目選手同士の対戦が決まり、徐々に群雄割拠の様相を呈し初めている。
さらに日本の三浦隆司がフランシスコ・バルガスvsオルランド・サリドの勝者に挑戦するという計画もあるとのことである。

そんな中、長きにわたりスーパー王者の座に君臨し続けた日本の内山高志はいまだに沈黙を続けている。試合の数日後に「ランニングを開始した」旨のブログを更新して以来、情報が途絶えている状態だ。

「「モチベーション」とか「メンタル」とかホント好きだよな。笑わせんなよ。内山は実力でコラレスに負けたんだよ」

内山高志の今後については多くの方が興味を持っているようで、各所で現役続行を望む声が聞こえてくる。チャンピオンという肩書が外れたことで逆に身軽になったと考える方も多く、コラレスにこだわらずにWBCを標的にしてもいいのではという意見もあるようである。

と、同時にあいかわらず会長を始めとしたワタナベジムへの批判が止まらない。

・目先の金目当て
・経営者としての立場はわかるが、ファン目線で考えてほしかった
・ワタナベジムではビッグマッチは難しい

それぞれ言い方は違うが、一様に「日本の至宝である内山高志の選手人生をジムのせいで無駄遣いした。日本のジム制度の限界を見た」といった意見が大勢を占めているようである。

「ウォータースvsロマチェンコ決定ワロタww これで内山vsコラレス再戦確定的か?」

僕自身、日本の内向きなジム制度を憂う姿勢には大いに賛成で、以前にも申し上げたように海外専門のマネージャーが出てくればいいと思っている。

「亀田兄弟の今後が見えた? これが亀田の進む道。日本ボクシング界の常識をひっくり返せ」

だが、あまりにも辛辣な批判が続くことに少し辟易していることも確かである。
内山敗北の衝撃が大きかったことはわかるが、ここらでほんの少しジム側の事情も考えてみたいと思った次第である。

本当に日本のジムは拝金主義なの?
「経営的な視点からみれば理解できる」という話はよく聞くけど、実際に経営的にどの程度仕方なかったの?

というわけで今回は「内山高志敗北における日本のジムの鎖国体質批判への考察」と題して、日本のボクシングジム経営について書いていこうと思う。

「ジェスレル・コラレスが内山を粉砕!! 暫定王者がまさかのアップセット!!」

まあ、かっこいい感じのタイトルをつけてはいるが、要するに「ボクシングのジムはどれだけ金儲け主義なの? 実はそうでもないんじゃないの?」という個人的な感想に基づいた妄想記事である。それを踏まえて気軽に読んでいただければありがたい。

「やっとか! 和氣慎吾。ジョナサン・グスマンとの世界王座決定戦を予想する」

2016年4月27日大田区総合体育館、トリプル世界戦の売り上げは?(推定)

何はともあれ、例として挙げるのは当然内山が所属するワタナベジム、そして2016年4月27日に大田区総合体育館で行われたトリプル世界戦である。

「ワタナベボクシングジム」
「トリプル世界タイトルマッチ」

まず当たり前の話だが、ボクシングの興行収入として一番大きなものは、

・テレビ局からの放映権料
・チケットの売り上げ

である。

そこにグッズ等の売り上げが加わり、支出との差額が利益となるわけである。

今回の世界戦はテレビ東京が中継したわけだが、テレビ東京から支払われる放映権料がいくらになるかで大きく変わってくる。

「プロボクシングの放送権料はいくらぐらい」

ここを読むと、全盛期の長谷川穂積レベルでだいたい5000万円ほどの放映権料が得られるようである。

だが、「内山は視聴率をとれない」という話は常々聞いており、この辺を加味した金額がいまいちわからない。

キー局の中でもあまり潤沢な会社ではないテレビ東京ということを考えると1000万円程度なのかもしれないし、王者3人合わせて3000万円くらいはあるのかもしれない。

考えても仕方がないので、とりあえず今回は2000万円としておこう。

次はチケット代である。
チケット代の平均が約1万円と考えて、当日の客入りを見ると恐らく3500席程度はさばけていたのではないだろうか。
ということは、単純計算で1万円×3500人で3500万円である。

グッズの売り上げに関してはまったくわからないので、ざっくりとプラス100万円の収益があったことにする(いや、そんなにあるのか?)。

以上を合計すると、5600万円という金額が今回のイベントの売り上げということになる。

「内山進退は五分五分←これ、現役続行するパターンだ。大みそかはコラレスと再戦してるから落ち着け」

2016年4月27日大田区総合体育館、トリプル世界戦の支出は?(推定)

続いて支出についてだが、最も大きなものが、

・選手へのファイトマネー
・設営も含めたもろもろの会場使用代金
・宣伝費

の3つだろう。

まずはファイトマネーだが、これまでの実績を考えた上で各選手のファイトマネーを
内山2000万円
河野1000万円
田口700万円
で計算することにする(多すぎるか?)。

そして、対戦相手へのファイトマネーを
コラレス500万円
インタノン250万円
ランダエタ200万円
と仮定する(こっちも多すぎるか?)。

その他の試合のファイトマネーの合計がざっと100万円と考える(少ないか?)と、ファイトマネーの合計は4750万円ということになる。

続いて会場を使用する上で発生する代金である。

以下のページを見ると、後楽園ホールでボクシング興行を開催する場合にかかる費用がだいたいこんな感じだとのことである。

「後楽園ホールで試合を組むと、どのくらい」

さらに、

・後楽園ホールの収容人数が約2000人(後楽園ホールのキャパ)
・大田区総合体育館の収容人数が約4000人(大田区総合体育館のキャパ)

であることを踏まえると、

リング等必要機器のレンタル30万(変わらず)
運搬費用10万(変わらず)
会場設営、撤去の人件費60万(単純に倍)
レフェリー、ジャッジの費用100万
会場スタッフの人件費40万(単純に倍)
→合計240万円

非常にどんぶり勘定だが、このくらいと考えられるのではないだろうか。

ここに大田区総合体育館の利用料83万2000円をプラスして(大田区総合体育館利用料金)、合計323万2000円である。

次は宣伝費だが、これはテレビ局とジムとどちらが負担することになるのだろうか。とりあえずテレビCMやサイト内でのHP作成などは当然テレビ局であることは間違いないだろう。

また、もはや格闘技イベントではお決まりの煽りVTRだが、これも恐らくテレビ局側の負担で作成していると考えてよさそうである。

ためしに藤本京太郎の煽りVTRを見てみたが、提供元がTVTOKYOとなっていることからもそれがわかる。

※余談ですが、これらの煽りVTR(4分強×5本)を業者に依頼すると、普通に400万くらいかかると思います。

となると、ジム側が負担するのは会場で配るパンフレットやポスターなどのグッズ関連ということになる。

たとえば24P+表紙のフルカラーのパンフレットを作成すると仮定して、相当安く費用を抑えても、恐らく印刷代が4000部印刷すると27万円。
「冊子印刷・オフセット料金表」

デザイン料金の相場がページ単価@1万と考えて24万円。プラス表紙デザインが通常ページの倍の2万円。

もちろん写真撮影が必要になるので、カメラマンの出張費が内山、河野、田口の3人合わせて3時間程度と仮定して3.5万円。

「出張カメラマンの見積り料金まとめ【2015年】」

撮影スタジオは何とも言えないが、1時間5000円と計算したとして3時間で1.5万円。

「レンタル撮影スタジオ検索」

これで合計5万円である。

つまり、フルカラー24P+表紙のパンフレットを作成すると、合計58万円の費用がかかる計算になる。

以上を合計すると、5131万2000円。これがだいたいの支出ということである。

トリプル世界戦の収支計算結果(推定)

これらを踏まえた上で、4月27日に大田区総合体育館で開催されたトリプル世界戦の収支を計算すると、

収入:5600万円
支出:5131万2000円
+468万8000円

う~ん……。
何とも微妙な金額ですなぁ。
しかもこれは放映権料が2000万円と仮定した上での金額だ。

たとえば放映権料が3000万円だったとしたら利益は1468万8000円。さらにファイトマネーをもう少し抑えることができれば、1600万円くらいまで増やすことが可能になるのか? そこに各選手からファイトマネーの33%ずつを徴収できると考えると……。
イベントビジネスとしては悪くない数字である。

だが、逆に放映権料が1000万円だとしたら……。
これは計算するまでもなく完全な大赤字である。

確かハビエル・フォルトゥナを日本に呼ぼうとした際に要求された金額が4000万円だったか。
うん、アカンですね。

「絶不調のベルデホ、ロドリゲスに苦戦してブーイングを浴びる」

ボクシングジム経営における月々の収支計算(推定)

では、ここから先は日々のジム経営についてみていきたい。
ワタナベジムがボクシングジムを経営する上でどれだけの利益を得ているのか。それを順を追って考えていきたいと思う。
※例によって多分に妄想を含んでいるのでその辺は気軽にお願いします。

まずワタナベジムの会員数についてだが、このページによるとワタナベジムの会員数は約500人とのことである。ちょっと情報が少なく、確かなことは言えないのだが。

そして入会金および月々の会費が、
入会金:18900円
月々:12600円(一般会員)
となっている(全国一律で決まってるんだっけ?)。

「ワタナベジム入会案内」

非常に乱暴な計算だが、500人の会員×12600円と考えると単純に1カ月の売り上げは630万円になる。そこに初期費用としての入会金が18900円上乗せされているわけである。
多少女性や学生会員は安く設定されていることを考慮すると、月々の売り上げは600万円といったところだろうか。

続いてジム経営における原価だが、

・家賃
・人件費
・設備費用や光熱費

主にこの3つになるのだと思う。

まずこちらのページ(そのうち見られなくなるかも)を見ると、ワタナベジムの入っている五反田東幸ビルの家賃が約50万円となっている。そこに共益費をプラスして月に65万円。そのビルを2フロア分借りているので、合計130万円である。
なお、使用用途がボクシングということで、もしかしたら騒音や振動を加味して上乗せされている可能性もあるが、今回は考えないことにする。

次は人件費だが、このページによるとワタナベジムにはトレーナーが10人ほどいるという。これまたざっくりとした情報で確信がまったくないのだが。

おおざっぱにだが、トレーナー1人の給料を仮に40万としよう。

「ボクシングのトレーナーの給料て良いんですか」

さらにマネージャーが2人いると考えて、こちらにも同じ給料を支払っていると考える。
すると、40万×12人となり、従業員への給与が月々480万円かかる計算である。

そして最後は設備等の維持にかかる費用である。
ここの部分はマジでわからないのだが、やはりコンタクト系のスポーツである以上設備の摩耗は激しいはずである。だが、道具1つはそこまで高額ではないため、実はあまり大きな支出にはならないのではないだろうか。

「練習用グローブ」
「サンドバック」
「パンチングミット」

何とも言えないが、一応月に10万円ということにしておこう(もっと安いか?)。

さらに水回りを含めた光熱費に関してもいまいち想像がつかない。
このページを見ると、フィットネスクラブの光熱費はコスト全体の13%を占めているとのことである。
だが、これはさすがにプールなどの大掛かりな施設を有しているクラブを指しているのだろう。
というわけで、こちらも2フロアで10万円としておく(多すぎるか? わからん)。

以上を踏まえた上で、月々の収支を計算すると、

収入:600万円
支出:500万円
+100万円

ということになるわけだ。

実は一般会員を大事にした方がはるかに儲かるんじゃねえか?

たとえばだが、先日の大田区総合体育館規模の興行を年3回開催すると考える。そして、そのうちの2回に内山が出場したと仮定する。
ただ、残念ながら内山は負けてしまったので、残りの1回(大晦日)は河野公平と田口良一のみのダブル世界戦になる。
つまり、3回のうちの1回の興行が赤字確定である。

それを考えると……。
1年通しての興行の利益は概ね500万円といったところだろうか(その他、後楽園ホールでの自主興行などもあるかもしれないが、そこでの収支は今回はトントンと考える)。

それに対して、月々の会費による収支が+100万円……。

マジな話、これはどうなんだ?
ジムの経営だけを考えるのであれば、プロ選手よりも一般会員を大事にした方がはるかにいいんじゃないのか?
冗談抜きで、内山を広告塔にして一般会員を増やすことに集中する方がよっぽど儲かるのではないかと思えてくるが。河野や田口を優遇するよりも。

そもそも一番コスパが悪いのって、実は日本ランカーあたりの選手なんじゃないのか?
知名度的にはパンピーと変わらないけど、微妙にファイトマネーが上がる時期のホープっていうのが一番経営を圧迫してるんじゃないのか?
つまり才能のある選手に将来稼いでもらうために、実入りの少ない時期を持ち出しでジムが支えるということか。 
「京口世界王座!! アグルメドとの激戦を制す。いいですね京口! こういう試合が観たかった。最短世界一は無意味? まあ商売だから」
 
なるほど。
これは選手を日本国内に縛りたくなるわけですね。

「は? 海外? 何をたわけたこと抜かしとるんじゃ?」
「これまでお前にいくら投資したと思ってるんだよ」
「いいから黙って馬車馬のように働け」

「義理人情の精神」が色濃く残る業界であることもちょっと納得できる気がする。

非常にどんぶり勘定ではあるが、いろいろ見ていくと「会長の交渉力が~」とか「いつまで鎖国を続ける気だ」などとは一概に言えないのではないか。そんなふうに思えてきてしまったのだが、どうだろうか。

興行で1、2回大赤字を出しても経営が傾くわけではないが「日本に行ってやるからファイトマネー4000万円よこせ」と言われると、さすがに首を縦には振れない。
あのとき対戦相手をフォルトゥナからコラレスに切り替えたのは経営者として真っ当な判断だった。それが今回の僕なりの結論である。
もちろんファンに夢を売る人気商売ということはいっさい加味しない場合の話である。

「内山国内防衛ワロタ _( ̄▽ ̄)ノ彡 だから言っただろww 大田区総合体育館を想定しておけと」

※繰り返しになりますが、今回はあくまで僕の考えで書いた妄想記事です。これによって特定の何かを糾弾しようという気はまったくありません。また、出した数字に対する根拠も曖昧ですので、どうか気楽に読み流していただけると幸いです。

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