バーンズvsレリクとかいう隠れ名試合。疑惑の判定に興味がわかないのはおかしいのかな? 激しいペース争いをバーンズが制して防衛【結果・感想】

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スコットランドグラスゴーイメージ
2016年10月7日(日本時間8日)に英国スコットランド、グラスゴーで行われたWBA世界S・ライト級タイトルマッチ。
同級王者で3階級制覇のリッキー・バーンズと、ランキング1位の挑戦者キリル・レリクが対戦した。

今年5月にミケーレ・ディ・ロッコとの王座決定戦を制して王座に返り咲き、3階級制覇を達成した英国のスーパースター、リッキー・バーンズの初防衛戦。相手はKO率90%を誇る無敗の強打者キリル・レリクである。

「リナレスがクローラに勝利!! 才能が凡人の努力をあっさり凌駕する」

持ち前のスピードと手数で序盤から積極的に攻めるレリクに対し、王者バーンズはガードを堅めて反撃のチャンスをうかがう。

5R以降、レリクのペースが落ちたことを確認して攻勢に出るバーンズ。
終盤再びレリクがペースを上げて流れを引き戻すが、決定的な場面を作ることができず。

じっくりとレリクを観察し、確実にポイントを重ねたバーンズが3-0(116-112、118-110、116-112)の判定で勝利し、初防衛に成功した試合である。

隠れ名試合見つけました!! リッキー・バーンズめっちゃいい選手!!

リッキー・バーンズ判定勝利!!
無敗のホープ、キリル・レリクを3-0で退ける!!

まず試合を観た感想を申し上げると、
「両者ナイスファイト。めちゃくちゃいい試合でビックリした」
といった感じである。

実を言うと、僕はこれまでリッキー・バーンズという選手にまったく興味がなかった。
キャリア40戦を超えるベテランで、3階級制覇を達成したということは知っていたが、それ以上突っ込んでみようという気にはならず。決定戦でKO勝ちしたと聞いても、対戦相手であるミケーレ・ディ・ロッコの尋常じゃないイタリア人感の方がはるかに印象深い。おかげでバーンズへの興味は薄れるばかりだった。

今回の防衛戦も例外ではない。
Twitterなどで「露骨なジモハンがさく裂した!!」というつぶやきが目についたこともあり、いつまでたっても視聴する気が起きなかった次第である。
「バーンズねえ……。キリル・レリクっていうのもよくわからんし、まあ別にシカトでいいか」

だが、先日のコバレフvsウォード戦があまりにいい試合だったおかげで、そのままの勢いで視聴してみたらめっちゃおもしろかった。2016年屈指の好試合だったことに気づいたというわけである。

「コバレフvsウォード感想。コバレフ敗れる!! ウォードが3-0の判定で王座奪還!! 神の子がクラッシャーに鼻差で勝利」

え? これ、すげえおもしろい試合じゃないですか?
というか、リッキー・バーンズってこんなにいい選手だったんかい!!
完全に舐めてましたすみません。

確かに118-110という判定については「おや?」とは思ったが、それが大した問題ではないと思えるほどのすばらしい試合だった。個人的には年間最高試合に準ずるくらいの大熱戦に感じたのだが、いかがだろうか。

「河野惜敗!! 激闘の末、コンセプシオンに敗れる。引退なんかするなよ?」

ガード中心だと見せかけて、実はフットワークとポジショニングが得意な試合巧者

試合内容としては、抜群の身体能力を全面に出したフリースタイルのレリクに対し、ポジショニングと角度を調整しながら精度の高い左を当てるバーンズという構図である。

見切りのよさと上半身の柔軟性、そして手数の多さで序盤を支配したレリク。
1発の威力はそこまでではないが、スナップが効いていてとにかくスピードがある。
足も速く、前後に激しく動きながらダッキングとウィービングを織り交ぜ、バーンズになかなか的を絞らせない。

ただ、適正階級を超えたバーンズに対してもパワー面での優位性は感じられず、21戦19KOの倒し屋というフレコミほどの破壊力は見られない。一撃で倒すというより連打をまとめて相手をギブアップに追い込むスタイルなのだろう。自分からグイグイと前に出る積極性も高いKO率を生み出す要因だと思われる。

時おりサウスポーにスイッチするなど、巧みなボディワークと型にはまらないスタイルは文句なしの好選手である。
あまり好きなタイプではないが

対する王者バーンズ。
こちらは今回、本当にうまい試合運びを見せたと思う。
スピードと身体能力で勝る相手に対し、常にサイドに動いて角度を変えてクリーンヒットを許さない。

レリクは確かにスピードがあるが、動き自体は直線的である程度読みやすい。早い段階でそれを見抜き、絶えず左右へ移動しながら的確なジャブを当てていく。左でレリクの顔を跳ね上げ、さらに右をガードの内側から鋭角に通す。
自分のガードは常に崩さず、相手と正対しないように心がけつつレリクのスピーディな連打を防ぐ。打ち終わりにボディを返し、ダメージを蓄積させていく。

なるほど。
こりゃいい選手だわ。
僕はバーンズのことをてっきりリアム・スミスやアンソニー・クローラのようなガード中心の選手だと思っていたのだが、まったく違った。

「恐れ入りましたカネロ。リアム・スミスにあんな勝ち方するか」

足が速いのは断然レリク。ド派手な動きでリング上を動き回り、野性的なパンチで襲い掛かるボクシングは華やかで見栄えもいい。
だが、その反面体力の消耗は激しくすこぶる効率が悪い。激しく跳ね回る分、足場が不安定で1発のパンチの力感も足りない。

その点、効率的な試合運びを実現しているのはバーンズである。
相手の手が伸びない位置に移動し、自分のパンチが当たるタイミングとアングルを意識する。試合の流れや相手の癖を読む洞察力に長けた、職人気質の選手というヤツである。

「パッキャオが復帰戦に快勝!! バルガスに格の違いを見せつけて余裕の判定勝利」

激しいペースの奪い合い。序盤のレリクに中盤のバーンズ。後半レリクが盛り返したが、ラウンドごとの印象点が足りなかったか?

3Rまでは持ち前のスピードと手数で優勢に試合を進めていたレリクだが、4Rの後半あたりから徐々に流れが変わり始める。
微妙に出足が鈍り、踏み込みのレンジに陰りを見せ始めたレリクに対し、バーンズの直線的な左が立て続けにヒットする。

踏み込みの瞬間、わずかに体が伸び上がるレリクの癖を掴んだバーンズ。
動き出しの一瞬を狙って絶妙なタイミングで左を突き刺し、連打の発動を寸断する。まるでビリヤードのような直線的な左から、さらに体のひねりを効かせたオーバーハンドの右へつなぐ。
もみ合いの局面では連打の合間を縫ってボディ打ちを挟み、レリクの動きを鈍らせる。

レリクも試合の流れを取り戻すために何度もペースアップを図る。このあたりの底力はさすがである。
だが、そのたびにバーンズの巧みなサイドステップですかされ、明確なラウンドを作ることができない。
ラウンド開始直後は全力で襲い掛かるが、後半になるとバーンズのペースに巻き込まれる。そのため、支配した印象がいまいち残らないのである。

「クロフォードがポストルに大差判定勝利!! ん? クロフォード圧勝? むしろポストル勝てたんじゃないのか?」

終盤10R。
再びレリクがペースをアップし、強引に流れを引き寄せる。この局面でのレリクの集中力はさすがのひと言。やはり地力を持った選手であることは間違いない。
ただ、バーンズをあそこまでフラフラにしておきながらもダウンを奪えなかったのは痛かった。ラスト3Rのどこかでダウンをとっていれば、もしかしたら別の結果になっていたのかもしれない。

恐らくだが、この選手はもう少し効率のいい試合運びができるようになれば、さらに上にいけるのではないだろうか。メイウェザーやウォードとは言わないまでも、今よりわずかに省エネを意識するだけで俄然変わってくるような気がするが。

そして、センスや才能で上回る相手を知力と経験で抑え込んだバーンズの試合巧者ぶり。この試合の見どころはやはりこれに尽きる。
多少のジモハンはあったかもしれないが、とにかくすばらしい試合だった。

まあ、118-110はさすがにさく裂させ過ぎだが。

「ロマチェンコ完勝! ウォータースあへあへギブアップで余裕の防衛成功!! 階級アップで覚醒」

いい試合であればあるほど、判定結果への興味がなくなる。「そこにこだわっててもしゃーなくないか?」と思っちゃうんですけどダメですかね?

今回のバーンズvsレリク戦でもそうなのだが、いい試合であればあるほど判定結果への興味が薄れてしまうのはあまりよくないことだろうか。

「こんな会場でやっていいの? シャフィコフvsコミー戦がすごい試合だった!! イースターへの挑戦者決定戦」

「疑惑の判定? こんなおもしろい試合が観られたんだからええんちゃう?」
試合内容に対する感動が大きすぎて、どうもそちら側に気持ちがいかないのである。

先日のコバレフvsウォード戦についてもいまだに議論が行われているが、まったくそこに乗れない自分がいて、微妙に疎外感を感じている。

多くの方が自己採点に基づいた持論を展開し、様々な主張がなされる状況はまだまだ続きそうである。
だが正直な話、僕はあまりその部分に意味を見出せていない。
個人の見方によって結果が変わるのは当たり前で、本当の意味での正解はどこにもない。

というより、そのために公式ジャッジが3人いるのであって、その3人が全員114-113でウォードを支持したのだから「もうええやんけ」という気持ちが強い。

さらに言うと、3人のスコアが各ラウンドまで一致していたわけではなく、それこそスコアをシャッフルすれば結果が変わる可能性もある。もはや何を言っても後の祭りとしか思えないのである。

もちろん選手本人にとっては重大事項であり、それがすべてと言っても過言ではない。ちょっとしたさじ加減で天国と地獄に分かれるのだから「政治的な策略」という言葉を口にする気持ちもわかる。

だが、観ている側としては、
「こんなおもしろい試合の後で、そこにいつまでもこだわっててもしゃーなくないか?」
「それより、試合の流れとか駆け引きを追いかける方がよっぽど楽しくないか?」
と思ってしまうのである。

だって、あのロボットみたいなウォードが一か八かの賭けに出たんだぜ?
破壊神と呼ばれたコバレフがウォードを警戒して躊躇したんだぜ?

そういう微妙な駆け引きや精神の揺らぎを感じる方が全然おもしろくないか?
ポイント云々でカリカリするよりはるかに建設的じゃないか?

「最強巨神兵コバレフの攻略法判明? チレンベ(チレンバ)の大健闘で大差判定ながら不安を残す」

これは恐らく、僕自身が特定の選手に対して深い思い入れがないことが原因なのだろう。

前回の記事でも申し上げたように、僕はコバレフのファンである。試合後のインタビューでこの選手の人間臭さに触れてホロっときてしまったことも確かだ。

だが、「しょせんは他人事」という思いもどこかにあり、微妙な判定にいちいち文句をつける気が起きない。
そんなことより、おもしろい試合が観られたことへの感動の方がはるかに大きく、そちら側の満足感でお腹がいっぱいになってしまうのだ。

個人的にこれがいいのか悪いのかはよくわからない。
ただ、今回の判定結果にヒートアップするボクシング関係者やファンの声を聞いて、ちょっと複雑な気分になってしまった。

おや、どうした?
いつの間にかバーンズvsレリクからコバレフvsウォードに話題がすり替わってるぞ?

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